平埜生成さん(Twitter:@kinarichanda)は、2009年から2017年までの8年間、劇団プレステージに所属。中心メンバーとして数多くの作品に出演されました。舞台を中心に、ドラマや映画などで幅広く活躍しています。
ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」、NHK朝ドラ「カムカムエヴリバディ」など注目作に多数出演される一方で、SNSやブログなどの発信活動にも力を入れていらっしゃいます。
今回は、そんな平埜生成さんに「俳優としての発信活動で思うこと」をテーマに、俳優が発信活動をする意味やSNSとの付き合い方、Medyのようなセミクローズドな場所でこそ届けたいものなど、平埜生成さんの発信活動にかける思いをお聞きしました。
▼ 平埜生成さんのニュースレター「ヒラノキナリの頭の中に浮かぶ島々」
▼ ニュースレターサービスMedyについて
ー Medyはどういった思いで始められたのでしょうか?
コロナ禍のタイミングと前事務所を離れたことも重なり、自分の中でどう「この時代を生きていけば良いのかな」と考えていたときに、たまたまMedyを見つけて今に至ります。
俳優活動をするにあたって、映画を観たり、演劇を観たり、本を読んだりするインプットとそれらを元に表現するアウトプット活動の比率がすごく悪いなと感じていました。
俳優にとってのアウトプットは「演技すること」なのですが、今は仕事が十分にあるわけではないので、アウトプット先が足りないフラストレーションをブログなどの発信活動に当てているようなイメージです。
ー 運営されているブログ等は事務所の方が管理されているのでしょうか?
ブログをはじめた当時は学生だったこともあり、投稿する記事を事前に事務所に確認していた時期は確かにありました。正しいリテラシーを持って発信できるのかといった配慮からです。
俳優の場合は、自撮り写真問題などがあり、背景から撮影場所が特定できてしまわないか、写ってはいけないものが写っていないかといった確認も含めて、事務所とやりとりをしていました。
ただ、続けていく中でリテラシーも身に付いてきたので、そこから先は自由でした。
ー ご自身で自由に発信できることで感じた変化はありますか?
「自分がどういう人間なのか」みたいなことが分かってきました。
僕の発信には目的のようなものはなく、単純に自分の感じたことや思ったことを書いています。
ですが、 ”自分が発信することで自分の言葉をまた自分が聞く” というインプットとアウトプットを繰り返すことができ、自分が「どういう文章が好きなのかな」とか、「どういった思考回路を持っているのか」を文章を通じて把握できるようになった感覚です。
ー 現在は、どのような思いで発信活動を継続されているのでしょうか?
最近は、発信活動は資産になると思ってきました。
自分の発信したことが、生きてきた軌跡のようなものとして記録され、それが資産になのではないかと思っています。人は変化するものなので、その変化を見ることもできます。
一時期は10代の頃を消したい過去だなとか思っていましたが、最近は過去も含めて生きた軌跡や資産になるんではないか。もっと自分の認知度が上がっていったときにこそ価値が生まれるものかもしれない。といったことを考えるようになりましたね。
ー 俳優にとって、アウトプット活動の意味とは何だと思われますか?
俳優は、次の世代との入れ替わりがすごく激しくて、次から次へと若くして活躍するスターが生まれてくる世界です。
その中でお客さんや監督さんに対して、"演技"とか"イケメン"だけでは戦える世界ではなくなってきていると正直感じています。
作り手側としても、映画を作るのならば、"映画が好きな俳優"を使ってみたいとか、画家の役を誰かに演じてもらうなら、"実際に絵を描いてる俳優"に演じてもらいたいといった要望があるのだと思います。そのほうが演技にリアリティも出ますし。
今は私生活もすごく見られていると思うので、そういう状況も含めてSNSとかアウトプット活動の意味に繋がっているんじゃないかと思います。
たとえば、僕は最近、落語にすごくハマッているのですが、とある落語家さんを好きになったのは、エッセイを読んで「え、この人の落語見てみたい!」となったことがきっかけでした。
そういった意味では、知ってもらえるきっかけ作りは、俳優も含めてこれからのクリエイターには必須なのかなと思いますね。
僕自身も、テレビ・映画や舞台の中だけでなく「"自分の素"を好きになってもらえるポイントを作りたい」という思いはあって、Medyを利用する中で、そこを出していきたいなと思っています。
あと何でもそうだと思うのですが、「打席に立たないといけない」と言われるじゃないですか。「とにかく打席に立って、バット振り続けろ」と。
ただ俳優の場合は、打席にすら立たせてもらえないという状況があります。自分で脚本を書いて演技するのかといっても、相手役が必要だったり、それを撮影してくれる人が必要だったりします。そういう意味で打席に立つハードルがあまりにも高い。
だからこそ、「自分にできることって何だろう」「自分から何が出てくるんだろうな」という自分の内側を探すことも、アウトプットの意味なのかなと思ったりもします。
もちろんその分、批判とか誹謗中傷のリスクもあるんですけど、最近ではシステム自体がうまく発生を防いでくれたり、風潮としても「そういうこと(誹謗中傷や攻撃)は、辞めよう」みたいな時代になってきたりしているので、すごく住みやすくなってきてるなという印象はありますね。
ー Medyは利用していただいた背景はどのようなところにあるのでしょうか?
リリースされた際に、知人がTwitterでつぶやいていてMedyを知りました。
そもそも、本当にメルマガがやりたかったんですよね。
そして、手段を考える際に「どうせ始めるんだったら新しいサービスを使った方が、一緒に向上していけるのではないか」と思いました。
サービス側も成長を絶対に望んでいるし、僕もそれを利用させてもらって新しいことに向き合えるというか。
新しいことをやるにはバグがたくさんありますが、そのバグとか未完成なものを楽しみたいという思いがありました。
ー そのような新しいサービスと一緒に成長したい・楽しみたいといったモチベーションは、どのようなところから来るのでしょうか?
「自分の失敗に立ち会える」というのが僕の中での一番大きなモチベーションです。
どのプラットフォームも成熟してくると、失敗できなくなっていくと思います。
TwitterにしてもYouTubeにしても、今更始めても既に模範解答みたいなものがあるので、それに近づこうとしてしまうと思うんです。
たとえば、昔のYouTubeは結構過激なものもあったじゃないですか。
まだ利用者・閲覧者が少ないので失敗がたくさんできて、「この表現は受け入れられないんだ」と学べる余裕があったと思います。けど、今ではTwitterもすぐ炎上してしまうし「自分のこの発言は大丈夫なのかな…」など考えてしまって、うまく転べない。
(僕は)転んで気づくことが多いのに、知られているサービスだと転ぶことができないので、「新しいサービスを使っていっぱい転んでみたい」という思いがありますね。
これは演技も一緒で。10年くらい経験すると後輩ができて、何か失敗しづらくなってくるんですよね。だから ”転びたい” ということが、一番大きいかもしれないですね。いっぱい失敗して、いっぱい発見をしたい。
あと、応援してくれる人を増やしたいっていう気持ちも大きいかもしれないです。自分の知らない世界に行って、そこで出会った人たちに応援してもらえるような人間になりたいと思っています。
ー 平埜さんのMedyでの発信にはコンセプトなどはありますか?
意識しているのは、「素の部分を出したいな」ということです。
"中の人" という言葉があるじゃないですか。平埜生成の"中の人"が見えたら良いなと。
"中の人"が発信しているというのが僕の中のコンセプトで、Medyでは名前をカタカナ表記にしているのはそういう意味を込めています。
(Medyでは「ヒラノキナリ」という名義で活動)
漢字で活動しているときは俳優活動の一環として活動していて、カタカナのときは"中の人"が言葉を紡いでいるみたいなイメージで書いてますね。
でも、まだ素は出し切れてないなというのがありますね。笑
書いていて、うまいことを言おうと思っている自分がいることが、すごく恥ずかしくて嫌です...。
あと、他の発信活動では本心を言わないと決めてて、その代わりに「Medyでは直接的な表現で本心を出せるようにしよう」と思ってます。
以前noteで1回、直接的な言葉を使って後悔したことがありました。
その際に自分の表現力不足を痛感したので、もう少しクローズドな場所で、それこそメールアドレスでログインしないといけないという圧倒的に面倒くさい作業をしてでも見たいという人だけに絞って、直接的な表現で分かりやすい言葉にしようと考えています。
Medyの初回記事でも「俳優活動以外のキャリアを見たくないという人は来ないでください」と書いています。
いろいろなカタカナ活動の中でも、Medyでは直接的に表現していきたいです。
▼ 初回記事はこちら
ー noteなどのオープンな場所での発信とMedyの違いは感じますか?
noteで定期購読マガジンを運営することは、とても難しいと感じていました。
ファンクラブみたいな感じで運営していたのですが、「満足していただけるコンテンツを作らなきゃな」といったことを考えてしまい、結構しんどくて結果として辞めてしまいました。
そういった面では、Medyを含めたクローズドな場所で、もう少し気軽にメイキングみたいなものも含めて出していくと、ファンの方にとっても面白いのかなと思っています。
また、メルマガの形態は、直接メールが届くのでアクセスする手間が一番短くて、本当に良いと昔から思っていました。
誹謗中傷とか、いいねとかもない。すごく一方通行ではあるんですけど、「もう読みたくないな」と思ったら解約するだけなので、逆に登録してくれている人には受け入れてもらえてるという自己肯定感に繋がるのかなと思います。温かさもありますよね。
ちなみに、クローズドな発信場所にはLINEも考えていました。
ただ、LINEの場合は友だち数が表示されてしまうのと、LINE自体をやっていない人もいることがネックでした。
対して、メールアドレスは携帯電話を持っていたら必ず持っていますし、直接届いた方が嬉しいかなと思っていたのと、過去に劇団に所属していた際にメルマガ運営をしていたことで馴染みもあったので、Medyでのメール配信を選びました。
ー ファンの方たちとの関係性において、コロナ前とコロナ禍で変わってきてるなと感じるものはありますか?
関係性という意味では、あまり変わっていないのですが、単純に僕が発信する量を増やしたので、距離がすごく縮まったと感じています。
ー 舞台などの「リアル」の場がなくなった影響などは感じますか?
悪い影響はあまり感じていなくて、むしろオンラインの可能性にすごく希望を見出だせました。
SNSをきっかけに、いろいろな出会いがとにかく広がりました。出会える人の数が圧倒的に増えたので、この一年は不思議な感覚でしたね。
発信活動を増やした途端に、こういったお声がけ(Medyでのインタビュー)の機会も含めて、出会える人が急激に増え可能性を感じています。
特に、身近な間柄のファンが増えたような感覚です。
近親者とか友達とかレッスンの先生のように、連絡先まで知っているような身近なファンが増えました。浅香さん(本インタビューの聞き手 ※編注 Medyを運営するSpectraの代表)も、その1人ですね。
そういう人たちに応援してもらおうと頑張って活動するようになりましたし、朝ドラ出演が決まったときには、オンライン経由で知り合った方々が、直接僕に連絡をくれたことをよく覚えています。すごく嬉しかったことで、新しい体験でした。
また、他のファンの方々とも、また違った繋がりが生まれて、ファンの方の存在をより認識できるようになりました。
たとえば、昔から応援してくださっている方とかは、出演情報とかを拡散してくださるんですよね。すごくありがたいことです。
さまざまなメディアやプラットフォームが増えていく中で、平埜生成の情報を「こんな俳優いるよ」とか、「私が応援してる平埜生成頑張ってるよ」とか、周りに広める活動をしてくださるのはとてもありがたいし、ファンの方の存在の大きさをすごく感じていますね。
ー 今の時代、俳優をはじめとする芸能業界の方がSNSを利用する上で、気をつけること・気をつけたいことは何でしょうか?
プラットフォームによって住んでる人が全然違うので、発信の仕方も合わせて変える必要があると思います。
また、
- しっかりリテラシーを持つこと
- するべきじゃないことを自分の中で線引きすること
を前提に発信していかないといけないと思いますね。
やはり内容によっては、よく思わない方もたくさんいらっしゃいますし。
そして、絶対にスルースキルは身につけておかないと駄目ですね。やっていけないと思います。
ただ、別の角度の話として、俳優ではなく事務所に誹謗中傷がいってしまうケースがあって、事務所のスタッフが対応することになってしまうので、これは難しい問題だなと思いますね。
ー ご自身の中で「発信のルール」などはありますか?
当たり前なんですけど、人の悪口は言わないようにしています。
その他にも、時事ネタに対して反射的にリアクションするのはやめようとは思ってますね。
訃報とか政治のニュースはそうなんですけど、結婚ニュースとかも、反射的に突き動かされた感情のまま発信することは、とてもリスキーだと思います。
ー 平埜さんは、Twitterのリプライを制限されていますが、それもリスクを抑えることと関係していたりするのでしょうか?
Twitterは、引用リツイートしてほしいという思惑があります。
リプライはもちろん嬉しいし非常にありがたいのですが、現代において俳優が生き残っていくには「『この人を応援しています』と胸を張って言ってもらえる存在にならないといけない」と思っています。
また、どんな時に引用リツイートをするんだろうな、ということは元々すごく考えていました。
リプライとかいいね、他にもいろいろな反応の方法がある中で、「どんな時に人は引用リツイートするんだろう」と。
考えた結果、「自分のフォロワーさんに伝えたい」という思いがあるのではないかと思うようになりました。
僕自身、引用リツイートするときはそんな感じで、「見て、見て!」とか「この人応援してるんだけど」とか「これすごくない?」とか、自分が広めたいときに僕は引用リツイートしてるなと。
そこから、「リプライ欄を閉じることで引用リツイートが増えるのでは」とやってみたところ想像通り増え、広めていただけることに繋がったので、今も続けています。
ー 最近ではマルチに活躍される俳優も多く、平埜さんご自身も様々な媒体で活動されていますが、多方面で活動することのメリットなどはあるのでしょうか?
むしろ、ずっと一つの世界にいると嫉妬・憎悪のようなネガティブな気持ちが渦巻きやすいと感じています。
俳優の世界でいうと、演劇界とか映画界とかテレビドラマの世界とか、意外に業界が別れています。
一方で、ずっと演劇のコミュニティの中だけで活動していると、どんどん演劇しか見えなくなり視野も狭くなってしまい、「あいつがでかい舞台出た」のようなネガティブな感情が湧き出てしまいます。
でも、俳優は演劇だけでなく、映画やテレビといった他の世界も渡り歩ける。
監督同士が喧嘩していようと派閥があろうとなかろうと、呼ばれたら「はいはい!」と、どこにでも軽やかにいける仕事です。
それを俳優活動だけじゃなく、もっと違う世界にまで行けるようになったら、人間としても絶対魅力的になると思うし、それこそリスクが減ると思ってます。
ニュースレターをやっていたり、音楽活動をやっていたり、文筆業とかをやっていたりしたら「あいつ、何でもやってんな」と言われると思うんですよね。笑
そして、そう思われたら「”勝ち”だな」と思います。嫉妬もされないし、憎しみも持たれない。「あいつは何でもやっちゃうからしょうがないか」と。
むしろ、「あいつこんなことまでしてる」とか、「でも、それ俺には真似できない」とか、「私にはちょっと無理だな」と結局なっていくので、新しい世界には踏み出していった方が良いなと思っています。
ー これから先の俳優にとって大切なものは何だと思いますか?
これからの時代は「自分という主人公をどう演じていくか」が非常に大切になってくるんじゃないかなと思います。
メールマガジンは、わかりやすく"主人公がどう生きたのか"なので、その意味で主人公になれるからすごく良いなと思いますね。
その過程では、セルフブランディングを考えないといけないので、思考回路も身に付いてくるのではないでしょうか。俳優も含めてクリエイターには、これからセルフプロデュース能力が絶対的に必要になってくると感じています。
(本文終)
編集後記
Owner Interviewの第2回は平埜生成さんに、お話を伺いました。
俳優として、日頃の活動をしていく中で考えていらっしゃることをたくさん話してくださり、非常に興味深く、楽しくインタビューさせていただきました。
話が盛り上がってしまって泣く泣く内容をコンパクトにお届けしているのですが、未編集の生データは平埜さんのeluで販売しています。ご興味がある方はこちらもぜひ!(1時間まるまるのデータです!)
Medyの配信からも、あらゆることや俳優・発信といったご自身を取り巻く環境に対して常に考えて、アウトプットとして言語化されている方だと感じていたのですが、実際にお話させていただいても印象どおり聡明で、ご自身の言葉・表現を持っていっしゃる方だなと感じました。
同時に、とても温かみがある方で、文中に出てきた「応援される人になりたい」と部分に、気づいたら自分も引き込まれていた印象です。
Medyのご利用方法について、俳優の演技以外のアウトプット活動として、ファンとのコミュニケーションの場として、また、本心を語る場としてセミクローズドに運営できるMedyをご利用いただいていることは、他の俳優やクリエイターの方にも参考にしていただけるのではないでしょうか。
また、最後に語っていただいた「自分という主人公を演じる」という話にも通じますが、これからは、俳優を含む芸能人・YouTuberなどのクリエイターの方も、ビジネスオーナーになる必要がある時代だと感じています。
ただし、あからさまにお金を稼ぎにいく姿勢を見せてしまうと、やはり反感を買ってしまう側面もあると思うので、それをどう自然にできるようにするかというところは、我々サービス運営側がサポートできる範囲として、考え抜いて具現化していきたいと思っています。
ご案内
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NHK連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」京都編より登場
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